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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)1474号 判決

控訴人 藤原嘉枝

〈外四名〉

右五名訴訟代理人弁護士 村林隆一

被控訴人 島崎千代

右訴訟代理人弁護士 河本尚

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、原審原告藤原弘道が昭和三七年七月一一日死亡し、控訴人藤原嘉枝がその配偶者として、控訴人藤原弘之、同藤原弘治および同藤原博史が、いずれもその直系卑属として、その遺産を相続したことは当事者間に争のないところである。

二、さて、控訴人らの前項以外の主張に対する当裁判所の判断は、次に附加するもののほか、原判決理由に記載するところと同一であるから、(但し原判決第九枚目裏第一〇行目の「申立をなり」は「申立をなし」の誤りと認められるので、そのように訂正する。)それを、引用する。

適法な弁済の提供により、債務者はその提供の時より、不履行によつて生ずる一切の責任を免れるものではあるけれども、右弁済提供の法律上の効果は具体的債権債務関係における債務者の当該債権者に対する関係で生ずるものに過ぎず、当該債権のための担保権実行に関する訴訟法上又は実質上の効果を左右し得べきものではないから、右弁済提供に先立つて既に開始進行されている担保権実行の競売手続が、その開始決定が取消されることもなく進行し、競落許可決定も確定し、競落代金が完納されるに至つた以上は、債務者の弁済提供の有無に関りなく競落人は有効に競落不動産の所有権を取得するものと解すべきである。

控訴人らは、原審原告藤原弘道が弁済の提供をしたのが昭和三六年一一月一四日にして、弁済供託をしたのが同年同月一六日であり、供託書に供託原因を書くことは素人にはできないことで、それを書くことを弁護士に依頼したため一日を経過したのであるから、弁済供託がおくれたことはやむを得なかつたことで、これ以上早く供託せよということは不能を強いることにならないであらうかと主張するが、弁護士でなければ供託原因を書けない道理はないのであるから右控訴人らの主張は採用できない。

次に被控訴人が、原審原告藤原弘道の弁済の提供と、これが受領を拒否された事実を知悉して代金納付手続をとつたのであるから、かかる悪意の被控訴人に対しては、控訴人らは、依然として本件不動産を所有しているものと主張することができる旨主張するが、被控訴人が、右控訴人ら主張事実を知つて後、急いで競落代金を納付したとしても、その事実だけに基いて既に競落許可決定の確定した競売手続の競落人が競落代金の納付支払をすることをもつて公序良俗に反するものと認める理由もなく、権利濫用行為と解すべきものでもないから競落代金の納付により被控訴人は本件不動産の所有権を取得したものといわなければならず、控訴人らの右主張は採用できない。

終りに控訴人らは、弁済供託の効果は、その弁済提供の時に逆つて発生すると解すべきであると主張するが、右控訴人らの主張は当裁判所の採らざる見解である。

三、よつて控訴人らの請求は失当にして、本件控訴は理由がないから、これを棄却するの外なく、民訴法第三八四条、第八九条、第九三条、第九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 日野達蔵 裁判官 八木直道 常安政夫)

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